
7月8日に「第2回みの在宅支援薬剤師ミーティング」が開催されました。
このミーティングは、「在宅支援」を軸に地域の薬剤師による連携力を高め、より質の高い医療(薬物療法)の提供に繋げていくことを目的として立ち上げられましたが、今回も志の高い薬剤師11名が集い、濃密な時間を過ごすことができました。
今回の題材は「高カロリー輸液(TPN)の混注」です。
高カロリー輸液(TPN)は、近年在宅の現場で目にすることが多くなりましたが、十分な栄養状態を維持することができるといったメリットがある一方で、当然カテーテル感染や合併症といったデメリットもあります。
在宅医療そのものに不安を抱きやすい家族に、高カロリー輸液(TPN)を安心して導入して頂くためには、
僕ら薬剤師は、それらについての”十分な知識”と”正しい混注手技”を身に付け、更に地域の医療関係者ともしっかり連携することで、家族や医療関係者から頼られる存在になることが必要だと考えます。
しかし、本やインターネット等の情報だけで身に付けられる”知識”に比べ、経験者からレクチャーを受けながら自らの手を動かすことでしか身に付けられない”混注手技”は、
特に、注射剤そのものを取り扱う機会が少ない薬局薬剤師にとっては、なかなかハードルが高いものだと感じられているのではないでしょうか。
そのような理由から、今回のミーティングを「混注手技を実践的に学べる場」とすることにしたのですが、
改めて近年の高カロリー輸液製剤のラインナップ、特に在宅で使用される製剤に目を向けてみると、
トリプルバッグやクワッドバッグと呼ばれる製剤が主流となっていて、介護にあたる家族でも簡単に(手のひらでバッグを押すだけで)ビタミン剤やミネラル剤の混合ができるように工夫されています。
そうなると「果たして薬局薬剤師がシリンジや針を使った混注作業に慣れる必要があるのか?」という疑問が湧いてくる訳ですが、
そこは正直、”微妙だな”と思ってしまいました。
なぜなら、特に地方では、まだまだ地域包括ケアシステムがしっかりと機能しておらず、高カロリー輸液(TPN)を薬局薬剤師が提供するための十分な環境(クリーンベンチの設置等)だったり、質の高いサービスを提供できるほどのマンパワー(在宅専門の薬剤師等)が不足していることは明白で、
そうでなくても、在宅で使用できる注射薬には限りがあるという問題点も残された現状で、個々の患者に合わせた(オーダーメイド的な)注射薬の配合まで行える状況からは程遠いと感じているからです。
ただ、まだまだ”絵にかいた餅”状態の地域包括ケアシステムが何かのきっかけで突如機能し始め、薬局薬剤師に求めらる注射薬のスキルが急に高くなる可能性もゼロではないし、
新型コロナワクチンの接種現場でみられたように、薬局薬剤師がシリンジや注射針を使った混注作業に関わることが、世間から見て”当たり前のこと”と捉えらる風潮もみられます。
また、そもそも混注手技は高カロリー輸液(TPN)だけではなく、在宅での化学療法(抗がん剤)や緩和医療(医療用麻薬)でも必要なものではあるので、
※ただ将来的には、これらも高カロリー輸液(TPN)と同様に、簡易的なものに置き換わっていく可能性もありますが…
そういった意味では、少し先行投資的だと言えなくもないですが、
とにかく、一薬剤師にとって”混注手技”を身に付けることはプラスになってもマイナスになることはないので、
今回のミーティングで恐る恐る注射針を取り扱っていた薬剤師さんや、
バイアルから上手く薬液を抜けなくて手をベタベタにしていた薬剤師さんも、
きっと良い経験になったと思うし、これからもこのミーティングを様々な知識や経験を積める場としていきたいと考えているので、期待して頂けたらと思います。
それに、そもそも知識や経験というのは、特定の場所やシチュエーションだけで役に立つ訳ではなく、時を超え場所を変え、自分が想定していた以外の思わぬところで役に立つものでもあります。
例えば僕の場合も、
幼い頃に父親から教えてもらった農作業でのロープの結び方が、保育園行事のキャンプで役に立ったり、
中学生の頃に少しだけかじったプログラミング知識のおかげで、病院のホームページを作らせて貰えたり、
高校3年の秋に入院して得られた経験がきっかけで、薬学部に進学して薬剤師になったり、
病院で得られた救命救急の知識が、地域の消防団やPTA役員の講習会で役に立ったり、
医療安全管理者として教育的立場に立った経験が、学校薬剤師の出前講座で活かすことができたり、
若い時に飽きるほどやったTPNや抗がん剤の混注作業のおかげで、現在在籍中の精神科病院が新型コロナワクチンの大規模接種会場に指定された際に、スムーズに混注作業のフォローに入れたりと、
ほんとうに分からないものです。
そんな訳で、今回のミーティングで得られた知識や経験は、地域の在宅医療の質向上に結び付いていくことは間違いないと思いますが、
そうでなくても、いつか、どこかで、何か別の形かもしれませんが、皆さんのお役に立てて貰える日が来るだろうと確信しています。